2017年01月24日

第90回 ゴルジ体はタンパク質を貯蔵するか?

 まずは2015年度の相模女子大A日程の問題です。

5 ゴルジ体についての記述である。正しい文章番号をすべて番号順に書きなさい。
@ 真核細胞にはない。
A 扁平な袋を重ねた形の膜からなる。
B たんぱく質を貯蔵している。
C 細胞内で合成した物質を細胞外に運ぶ働きがある。
D 分泌がさかんな細胞では発達している。


 大学が公表していた正解はABCDです(2017年1月現在では、試験問題は見ることができますが、解答は公開されていません。以前は解答も公開されていたのですが、非公開になったようです。理由は不明です)。
 ゴルジ体は真核細胞にみられる細胞小器官の1つで、一枚膜の扁平な袋が多数重なったような構造をしています。細胞外へ分泌されるタンパク質の糖鎖修飾や、リボソームを構成するタンパク質のプロセシングを行っています。
 生物の教科書(数研出版)には「リボソームで合成されたタンパク質を小胞体から受け取って濃縮し、小胞に包んで細胞外へと運びやすい形にする。粘液やホルモン、酵素などを分泌する細胞でよく発達している」と説明されています。
 よって@は誤りで、ACDは正しい文章です。で、よく分からないのがBです。
 手元にある教科書や参考書などには、ゴルジ体の機能として「タンパク質の貯蔵」と明記しているものはありません。ウィキペディアの日本語版にも英語版にも「タンパク質を貯蔵する」という旨の記述はありませんでした。
 さて、ゴルジ体はタンパク質を貯蔵するというのは本当でしょうか?

 この疑問に対するヒントがYahoo知恵袋にありました。
 「ゴルジ体には物質を貯蔵する役割は無い」と書いてある資料と「役割がある」とかいてある資料があって、どちらが正しいか?という質問です。これに対する回答を要約すると、
1.「ゴルジ体は物質を貯蔵する」と書かれた文章は確かに存在する。
2.平成19年度のセンター試験では、「ゴルジ体は物質を貯蔵する」というのは適切ではないとしている。
ということです。

 そこで、「ゴルジ体の物質(タンパク質)貯蔵」に関してネットで検索してみました。
 すると、簡単にその記述が見つかりました。「生物学用語辞典」です。
「ゴルジ体:袋状の二重膜から構成された細胞小器官の一つで、小胞体で合成されたタンパク質の貯蔵や糖鎖の付加などの修飾反応や切断反応(プロセシング)が行われる。小胞体から細胞膜などへの物質輸送の経路になっており、小胞体に面したシス面、細胞膜側のトランス面や中間部分でそれぞれ異なった機能を持つ。」

 「小胞体で合成されたタンパク質の貯蔵」とはっきり書かれています。辞典に明記されているのだから、これは正しいにちがいありません。
 
 ・・・。ちょっと待て。
 ゴルジ体が二重膜で構成???
 なんという大嘘でしょう。ゴルジ体は単膜です。こんないい加減なことを書いているなんて、これは信頼するに値しません。辞典だからと言って気を許していると痛い目に合います。
 他に信用できる情報はないか探してみました。すると、数は少ないのですが、それらしい記述のあるサイト(いずれも公的なものではありません)を見つけました。しかし、生物学用語辞典の丸写しであったり、どうやらそれを参考にして書かれたと思われるものばかりです。
 適切なキーワードで検索すると、論文や大学の紀要、公的機関の専門家が書いた文章が往々にして引っかかるものですが、それもありません。

 ネット上には、「ゴルジ体がタンパク質を貯蔵している」と強く断言できる材料が乏しいことがわかりました。それゆえ、これは眉唾ではないかと思えてきました。

 平成19年度のセンター試験に対して、日本生物教育学会から、「タンパク質の糖修飾と仕分け・配送を行うゴルジ体には、一時的にタンパク質が集まる。教科書にも『細胞外に分泌される物質は,いったんゴルジ体内に集められたのち』という記述がある。過去にはゴルジ体の働きとして『物質の貯蔵・分泌に関係する』と記載されていた参考書もあり、このような経緯からCを誤答とするのは厳しい。」という批判を受けたそうです(上記のYahoo知恵袋より)。

 しかし、物が集まるのと、物を貯蔵するのは、意味が違います。郵便局は郵便物の集積所であって、貯蔵所ではありません。
 また、過去の参考書にそう書かれたものがあるというのも、それを肯定する材料にはなり得ません。その参考書が誤った情報をもとに書かれたものだとしたら、速やかに訂正されるべきだからです。

 細胞の内部環境は非常にダイナミックです。タンパク質は次々と生産され、それぞれの持ち場へと移動していきます。一部はゴルジ体を経て、細胞外へと分泌されますが、細胞外の環境変化によって物質の流れが停滞することもあるでしょう。その場合、タンパク質がゴルジ体内部に一時的に貯留することはあるかもしれません。
 しかしそれは、例えば液胞が糖分をため込んだり、排出できない老廃物を滞留させておくといった、積極的な貯蔵とは大きく意味が異なります。

 以上より、相模女子大の入試問題の、ゴルジ体に関する記述
B たんぱく質を貯蔵している
という文章は正しくない、と小生は考えます。

 この問題の出題者が、何を参考にしてこれを正しいとしたのか知る由もありません。しかし、教科書に明記されておらず、その他の資料にも明白な証拠の無いことを正しい記述として扱うのは、試験問題として非常に不適切なことだと思います。
posted by Mayor Of Simpleton at 00:22| Comment(2) | 高校生物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
精子のアクロソームに関心がある人を贔屓したかったんでしょうかね。
Posted by at 2017年01月26日 22:10
なるほど、おもしろい考えですね。
確かに、アクロソーム(先体)はゴルジ体が変化したもので、様々な酵素を蓄えています。だから、先体はタンパク質を貯蔵していると言えますが、これをゴルジ体にまで適応するのはちょっと無理がありますよね。
Posted by Mayor of simpleton at 2017年01月29日 02:29
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