2013年06月25日

第28回 C4植物の秘密

 高校生物で学ぶ内容の中で、分かり難いものの一つがC4植物です。従来は生物IIの範囲で光合成のところで発展として扱われてきました。新課程でも、基礎の付かない「生物」の範囲で発展として扱われています。
 C4植物とは、CO2を固定しグルコースを作るカルビン‐ベンソン回路の他に、C4回路という付加経路を持つ、熱帯の高温地域に適応した植物のことです。付加経路でCO2が取り込まれて最初にできる有機物が炭素数4のオキサロ酢酸なのでC4回路(もしくはジカルボン酸回路)と呼ばれます。これに対してカルビン‐ベンソン回路しか持たない植物はC3植物(CO2が取り込まれて最初にできる有機物が炭素数3のホスホグリセリン酸なので)と呼ばれます。

 C4植物について教科書では、
「熱帯産のトウモロコシやサトウキビは、強い光のもとでも光飽和になりにくい性質の光合成を行っている。これらはカルビン‐ベンソン回路のほかにCO2を効率よく固定する反応系を持っており、大気中のCO2濃度が限定要因にならないためである。これらの植物は・・・C4植物と呼ばれる」(改訂版高等学校生物II、数研出版、平成25年1月発行)
と、説明されています。また、予備校で使っている教材には
「・・・カルビン‐ベンソン回路とは別の回路反応(CO2濃縮反応)を持つ植物をC4植物という。強光・高温では、CO2濃度が光合成速度の限定要因となるため、強光のもとで生育する植物はCO2の濃縮を行い、強光のもとで光合成速度を高く保つ仕組みを持っている」
と書かれています。C4植物を載せている参考書の説明は概ねこのような内容です。

 まとめてみると、
Q.なぜC4回路という付加経路を持っているか?
A.CO2を濃縮するため

Q.CO2を濃縮するとどんなメリットがあるか
A.光量と温度が十分に高い地域ではCO2濃度が光合成の限定要因となりがちだが、植物体内でCO2を濃縮すれば(濃度を上げれば)光合成速度を高く保てる

となります。そのため、熱帯の高温地域ではC3植物よりもC4植物の方が適応的であるわけです。ふむふむ。ここまではよく理解できます。
 文章での説明だけならば、それほど悩むことはありません。間違ったことは書かれていませんし、適応の仕組みも理に適っているからです。
 しかし、この説明にC4回路とカルビン‐ベンソン回路の図(図説などに良く出てますね)が加わると、なんだかよく分からなくなってしまうのです。というのも、この回路の説明として、上記のような説明では不十分だからです。
第28回図.jpg
 この図を見ると、C4回路に1分子のCO2が入り、回路が1回転する間に1分子のCO2がC3回路に渡されています。つまり、いくら回路が回ってもCO2分子の数は増えないのです。これではCO2が濃縮されるというイメージがわきにくいでしょう。
 さらに勘違いしやすい点は、C3回路とC4回路が連動していると勝手に思い込んでしまうことです。例えば、好気呼吸のクエン酸回路は、回路の途中で放出される水素はNADによって運ばれ、最終的に酸素と結合して水になりますが、水素を受け取る酸素が無いと回路が回りません。これと同じように、C4回路から出されたCO2を受け取ってもらえないと、その先に進まないようなイメージを持ってしまうと間違いなのです。
 葉肉細胞でCO2を固定したC4回路は維管束鞘細胞でCO2を放出し、CO2がカルビン‐ベンソン回路に組み込まれようが組み込まれまいが、かまわずに次に進みます。実は、カルビン‐ベンソン回路はC4回路に比べて、回転する速度が非常に遅いのです。これは、カルビン‐ベンソン回路にCO2を固定するRubisCO(Ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase、ルビスコ)という酵素の能力のせいです。一般的な酵素は毎秒数百〜数千回の化学反応を触媒しますが、ルビスコは1秒あたりに約3個のCO2分子しか固定できません。維管束鞘細胞の葉緑体は葉肉細胞の葉緑体よりも大きく、そのぶんルビスコの量も多いのですが、あまりに効率が低いために維管束鞘細胞内にCO2が溜め込まれていく、つまり濃縮されていくわけです。
 C4回路とカルビン‐ベンソン回路の回転速度の違いについて教科書では説明がありません。ごく一部の難関校受験生向けの参考書に説明があるくらいです。これではC4植物の維管束鞘細胞でCO2が濃縮される仕組みが分からないでしょう。高校レベルの内容ではないので知っておく必要はないのかもしれません。ですが、気になってしまった生徒にはモヤモヤ感がつのってしまうでしょう。

 さて、CO2が濃縮される仕組みは分かりました。維管束鞘細胞内では高CO2濃度下で、豊富な光量と十分な温度によってCO2が効率良く固定されていくのです。
 しかし、まだ何かスッキリしないものが残っています。CO2が濃縮されたことによって、本当に光合成量は増えているのでしょうか?
 確かに、一つの維管束鞘細胞内での光合成速度は上がるでしょう。しかし、カルビン‐ベンソン回路が回るのが維管束鞘細胞に限定されてしまうために、一個の植物体としては光合成量が増加しないような気がします。葉っぱ全体で光合成を行った方が得なんではないでしょうか。これが一つ目の疑問です。
 また、ルビスコのCO2固定速度によって律速されているならば、CO2濃度を上昇させても光合成速度が変わらないような気がします。つまり、ルビスコの作業効率が悪い限りは材料(CO2)を増やしても作業(光合成)の速度は変わらないはずです。これが二つ目の疑問です。
 C4植物の適応戦略について考えをめぐらせると、これら二つの疑問に突き当たるのです。そして、これらの疑問に対する答えは高校生物の教科書や参考書には書かれていないのです。

 まず、C4植物の説明で「・・・強光・高温では、CO2濃度が光合成速度の限定要因となるため・・・」というのが誤解を招く元凶なのです。このCO2濃度というのは、環境中つまり大気中のCO2濃度のことだと思い込んでいるかもしれませんが、実は違うのです。
 この説明を読むと、「高緯度地域では光量が限定要因になるが、熱帯地域では光量が非常に多いのでCO2濃度が限定要因になってしまう。そこで、CO2濃度を高くしてやれば強い光量を有効に使えて、光合成量も増加するので適応的だ」と想像してしまうでしょう。これはある意味正しいのですが、これではC4植物にとって重大な問題が考慮されていません。
 大気中に利用可能なCO2が少ない(限定要因である)ためにCO2濃度を上昇させているわけではないのです。植物にとって大事なのは、大気中のCO2濃度よりも葉内のCO2濃度です。葉内とは気孔の内側の空間、ひいては細胞内のことです。強光・高温地域では、蒸散による水分の損失を防ぐために気孔を閉じがちです。そのため外からCO2を取り込むのも制限されてしまい、葉内のCO2濃度が低くなってしまうのです。そのため、少ないCO2を葉肉細胞のC4回路で効率的に固定し、維管束鞘細胞へと送り込んでやる必要があるのです。
 C4植物と並んで教えられるCAM植物というものがあります。乾燥地域に適応した植物で、日中は完全に気孔を閉じて蒸散を防ぎ、夜間に気孔を開いてCO2を固定します。このCAM植物との混同を避けるためなのか、C4植物については気孔を閉じがちであるということが、教科書では全く説明されていません。

 C4植物がCO2を濃縮するもう一つの重要な意義は光呼吸の回避です。光呼吸というのはカルビン‐ベンソン回路の副回路で、O2を消費してCO2を放出します。そして厄介なことに、普通の呼吸と異なりATPを作るどころか消費してしまいます。
 この光呼吸を触媒してしている酵素が、なんとルビスコなのです。RubisCOのOは酸化酵素(oxygenase)を意味していて、CO2、O2ともに基質として利用できます。そのため、O2が存在するとカルビン‐ベンソン回路だけでなく光呼吸の回路も回ってしまいます。これでは、グルコース合成の邪魔になるばかりか、エネルギー(ATP)を余計に消費してしまうことになります。
 気孔を閉じがちなC4植物の葉内はCO2分圧が低くなってしまいます。また、明反応によってどんどんO2が作られ、気孔が閉じていると排出されにくいのでO2分圧が上昇します。このような状況では光呼吸反応が活発になってしまいます。そこで、C4植物は維管束鞘細胞にCO2を濃縮し、相対的にO2分圧を極めて低くし、光呼吸が起こりにくくしているのです。

 以上をまとめると、「C4植物はC4回路を使ってCO2を濃縮し、光呼吸を抑制することによって、熱帯地域に適応している」と言えます。しかし、その適応の仕組みを説明するには、高校生物では習わない「光呼吸」という現象を知っていなければならないのです。肝心の部分は秘密にしてC4植物のことを教えられても、その生物学的意義が理解できないのは当たり前です。
 高校でC4植物を教えるのならば光呼吸についても触れるべきだと思います。どうせ、C4植物自体が発展として扱われているのだから、少しくらい高度な内容を付け加えても問題はないんじゃないでしょうか。

 ところで、光呼吸はATPを無駄遣いするので植物にとって何も得なことが無いように思えるのですが、その生物学的な存在意義は何なのでしょうか?
 長い進化の過程で、あらゆる光合成生物に保存されている形質だということは、何らかの必要性があると考えて良いでしょう。しかし、活性酸素を発生させないためだとか、いくつかの仮説があるようですが、実ははっきりとは分かっていない状態なのです。
 ちなみに、C4植物の維管束鞘細胞でも明反応によってO2が発生するので、わずかながら光呼吸は起きています(1)


本来ならば、C3、C4、CO2、O2の数字はサイズを小さくするべきなのですが、面倒臭いのでそのままにしています。ご了承ください。


(1) http://cse.niaes.affrc.go.jp/yyoshi/c4photores.html

ラベル:ルビスコ 光呼吸
posted by Mayor Of Simpleton at 10:04| Comment(0) | 高校生物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。